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神戸地方裁判所 昭和40年(行ウ)18号 判決

原告 永田益造

被告 神戸国際港都建設事業土地区画整理事業施行者神戸市長

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告訴訟代理人は、被告が別紙第二目録(一)、(二)記載の各建物につき訴外村田春生及び同仲西芳子に対してなした、仮換地(三宮元町換地区一街区一一号、六三一坪八合一勺)への移転通知処分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、原告の主張

一、訴外仲西芳子に対する移転通知処分の取消を求める請求の適法性について(第二〇号事件)

原告及び旧原告亡永田新九郎が、前記仲西に対し被告より後記移転通知処分のあつたことを知つたのは、昭和四〇年五月四日である。即ち原告代理人日笠豊において当裁判所昭和四〇年(行ウ)第一八号事件の訴提起のため神戸市都市計画局都市改造第一課に行き調査中、右仲西に対する移転通知処分が昭和三九年六月三〇日に発せられていることが判り、右日笠豊からその旨の知らせをうけて始めてこれを知つたものであり、該処分の取消を求める訴(第二〇号事件)を提起したのは同月三一日であるから、出訴期間を充足している適法なものである。

二、本案について(以下特記しない限り第一八号、第二〇号事件につき共通)

(一)、別紙第一目録記載の土地(以下本件従前の土地と略称する)は原告及び前記永田新九郎の共有であつたところ、神戸国際港都建設事業生田地区復興土地区画整理事業の施行者である被告は、昭和三九年二月八日右土地を含む合計一二筆の土地につき、三宮元町換地区一街区一一号六三一坪八合一勺を仮換地(以下本件仮換地と略称する)として指定した。右永田新九郎は昭和四〇年七月二二日死亡し、同人の子である原告が相続によつて同人の地位を承継した。

(二)、右従前の土地上には訴外村田春生所有の別紙第二目録(一)記載の建物及び同仲西芳子所有の同目録(二)記載の建物が存するところ、被告は昭和四〇年四月二七日右村田に対し神都都一第一四四号をもつて、同三九年六月三〇日右仲西に対し同第二七七号をもつて、前記仮換地指定がなされたことを理由に右各建物につきそれぞれ本件仮換地への移転通知処分(以下本件移転通知処分と略称する)をなした。

(三)、本件移転通知処分は次の理由により違法であるから取消されるべきである。

1、仮換地の使用収益権は、従前の土地につき借地権その他の実質的権利を有するの外、土地区画整理法第八五条の規定により、従前の土地の所有者との連署を得るか、もしその連署が得られなければ、みずから施行者に対し当該権利を証する書類を添えて権利申告の手続をなし、施行者から仮換地につき使用収益部分の指定(以下単に権利指定と略称する)を受けることによつて始めて生ずるものである。しかるに前記村田、仲西両名は本件従前の土地を権原なくして占有し、かつ被告に対し、土地区画整理法第八五条第一項の規定による権利申告の手続をなさず、従つて施行者である被告から同法第九八条第一項後段の規定による権利指定を受けていないから、仮換地につき使用収益権を有しない。ところで同法第七七条第一項によれば、施行者は第九八条第一項の規定により仮換地若しくは仮換地について権利指定をした場合、従前の土地に存する建築物等を移転し、又は除却することができると規定されている。被告は前記村田、仲西両名に対し権利指定をしていないから、本件各建物は仮換地上に移転すべきものでなく、除却すべきものである。それにも拘らず被告が本件移転通知処分をしたのは違法である。

2、本件移転通知は、三坪、五坪というような極端な過小借地をつくることになるから、同法第九二条に違反する。即ち土地区画整理は、健全な市街地の造成を図りもつて公共の福祉を増進することを目的とするものであつて、過小なる宅地、借地を造成することを禁じている。しかして土地区画整理法第九二条第二項、土地区画整理法施行令第五七条第二項によれば、過小借地の基準となる地積は一〇〇平方米以上、但し商業地域に於ては六五平方米以上で足りると規定されていて、商業地域であつても六五平方米以上でなければならない。しかるに、本件移転通知処分は三坪、五坪というがごとき極端な過小借地をつくることとなり、前記過小借地禁止の規定に違反するものである。

3、(第二〇号事件のみ)

本件土地区画整理は神戸国際港都建設法(昭和二五年法律第二四九号)に基ずいてなされているところ、同法第二条第一項は、神戸市を我国の代表的な国際港都として建設するため、都市計画は都市計画法第一条に定める都市計画の外、国際港都にふさわしい諸施設の計画を含むものとすると規定されている。本件仮換地は神戸市の表玄関に当る場所である。このような場所に三坪、五坪の建物を移転しこれを存置させることは国際港都にふさわしい諸施設の計画とは到底いいえず、神戸国際港都建設の趣旨に反し、同法第二条第一項の精神に違背する違法がある。

第三、被告の答弁及び主張

一、原告の主張一の事実は否認する。

二、同二の(一)、(二)の各事実は認める。

三、同二の(三)の1の事実中、前記村田、仲西両名からの土地区画整理法第八五条第一項の規定による権利申告が受理せられていないこと、従つて被告が右両名に対し同法第九八条第一項後段の規定による権利指定をしていないこと、及び被告が右両名に対し本件移転通知処分をなしたことは認めるが、右移転通知処分が違法であるとの主張は争い、その余の事実は知らない。

四、同二の(三)の2及び3の各主張は争う。

五、被告の主張

(一)、本件移転通知処分の根拠

1、土地区画整理法第七七条第一項は、施行者は、(1)、第九八条第一項の規定により仮換地若しくは仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定した場合、(2)、第一〇〇条第一項の規定により従前の宅地若しくはその部分について使用し若しくは収益することを停止させた場合、(3)、公共施設の変更若しくは廃止に関する工事を施行する場合、のいずれかの場合に、従前の宅地または公共施設の用に供する土地に存する建築物等を、移転または除却することができると規定しているが、被告の前記村田、仲西両名に対する本件移転通知処分は、昭和三九年二月八日原告及び前記亡永田新九郎両名の共有であつた本件従前の土地を含む合計一二筆の土地につき、仮換地が指定されたことを理由に(右(1)の場合に該当)、本件従前の土地に存する右村田、仲西両名所有の本件各建物をその仮換地先に移転するためになされたものである。

2、土地区画整理法第八五条第一、第五項は、借地権者その他の所有権以外の未登記権利者の保護を図りながら土地区画整理事業の迅速かつ画一的な施行を可能ならしめるため、施行地区内の宅地にそれらの権利を有するものは施行者に権利申告をなすべきことを定め、施行者は原則として、申告がない限り、その権利が存在しないものとみなして必要な処分または決定をすることができるものとしている。しかし施行者の私法関係への不必要な介入などの弊害を避けるため、建築物の移転または除却など法第三章第一節(通則)及び第七節(権利関係の調節)の規定の適用については、特に無申告の権利を否定しないことにしている。従つて、施行者は本件各建物の所有者のように借地権その他の用益権の登記も申告もしていない者に対しては、法第九八条第一項後段による権利指定をする必要がないことは勿論であるが、だからといつて、権利申告従つて権利指定がないというだけの理由でそれらの者が所有している建築物等を直ちに除却することは許されず、移転を行うか除却を行うかは、それとは別の見地から決定しなければならない。施行者に建築物等を移転または除却する権限が与えられているのは、事業施行上の必要に基ずくものであるから、施行者は建築物等の所有者の利益をできるだけ尊重して、移転するか除却するかを決定する際にも、原則として比較的損害を与えることの少い移転の方法を選ぶべきであつて、法第七八条による補償があるからといつてみだりにこれを除却すべきものではない。即ち、関係権利者の同意があるか、宅地の地積を適正化する場合にその宅地の地積が著しく過小であるため施行者が増換地を定めることが適当でないと認めて(仮)換地を定めなかつた(法第九〇条以下)とか、減歩によつて従前地に存した建築物等が(仮)換地に入らなくなつたとかの理由で、建築物等を移転することが法律上もしくは物理的に不可能である場合にのみ除却しうるものと解する。その他の場合、ことに従前の土地の使用収益権原の存否またはその内容をめぐつて、土地所有者と建物所有者との間に紛争がある場合には、施行者が司法的な解決に先立つてその紛争の当否を判断することは許されないから、施行者としてはひとまずその建物を仮換地に移転して、司法的な解決を待つべきものである。

また土地区画整理法第七七条第一項は「第九八条第一項の規定により仮換地若しくは仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定した場合」と規定しているのであるから、同項の文理からも、仮に権利の目的となるべき宅地またはその部分の指定はなされていなくても、仮換地の指定がなされておれば、その仮換地の指定を理由に、従前の土地に存する建築物等を仮換地に移転しうるわけである。そのことは建築物等の移転または除却が、もともと同法第九九条第一項の仮換地の指定の効果ことに同項後段の効果(従前の土地に対する使用収益の停止。賃借権その他の用益権を有する者についても、この効果はその者に対する権利指定がなされるまでもなく、仮換地の指定によつて生ずる)に対応するものであつて、賃借権その他の用益権を有する者に対する権利指定がなされたことに直接基因するものではないことからみても当然の帰結である。このように解することによつて同法第七七条第一項の定めている前記(1)乃至(3)の場合を統一的に理解することが可能となる。施行地区内の土地には、(イ)宅地と(ロ)公共施設の用に供されている国又は公共団体の所有する土地とがあり(同法第二条第六項参照)、(イ)の宅地については、(A)(仮)換地を定める場合と、(B)(仮)換地を定めない場合とがあるが、同法第七七条第一項の定める前記(1)はこの(イ)の(A)、同(2)は(イ)の(B)の場合に、それぞれ従前の土地に存する建築物等の移転または除却を、また同項の(3)は右(ロ)の土地に存する建築物等の移転または除却をする場合の規定であると考えられるからである。

(二)、過少借地の取扱いについて

土地区画整理法第九二条は、その表現に照らしても明らかなように、地積の小さい借地について地積を増して権利指定を行うか、権利の指定を行わないで金銭による清算を行うかを施行者に義務づけた規定ではなく、施行者は、借地の地積を適正化する必要があると認めた場合においても、その借地の所有者で、他の権利者の用益権の目的となつている宅地又はその部分の地積(同条第四項参照)や、借地人の借地の利用状況などを考慮して、通常の照応権利指定を行うか、増権利指定または金銭清算を行うかを裁量によつて決定しうるものである。

また、同条は、換地計画の決定または権利指定の際の基準を定めているのであるから、借地権者からの権利の申告があり、これに基づいて施行者が換地計画を定めるか権利の指定を行う場合に始めて適用せられる規定であつて、建築物の移転除却とは直接の関係がない。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

第一、訴外仲西芳子に対する移転通知処分の取消を求める請求(第二〇号事件)の適法性について

一、被告が訴外仲西芳子に対し昭和三九年六月三〇日神都都一第二七七号をもつて別紙第二目録(二)の建物につき本件仮換地への移転通知処分をなしたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、本件仮換地を共有していた原告及び旧原告亡永田新九郎両名が右仲西に対する移転通知処分のあつたことを知つたのは昭和四〇年五月四日であると主張し、被告においてこれを争うので判断するに、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告及び前記永田新九郎は、昭和四〇年五月四日頃原告代理人日笠豊からの知らせを受けて前記仲西に対する移転通知処分がなされていることを知つたことを認めることができる。もつとも、証人竹内勇の証言中には、前記移転通知処分をなした日の前後において原告に対し電話または口頭をもつて処分がなされたことを告知した旨の供述が存するけれども、その旨の記録も存しない本件においては直ちに右供述を措信することはできず、他に出訴期間の徒過を招来するがごとき時期に原告及び前記永田新九郎において右移転通知処分がなされたことを知つたことを推認すべき証拠は存しない。

出訴期間の遵守の有無は訴訟要件として裁判所の職権調査事項に属するが、処分の取消の訴が出訴期間内に提起された事実の存在が最終的に不確定である場合には、その訴は訴訟要件を欠く不適法な訴として原告の不利益に帰せられるものと解すべく従つて処分の取消の訴が出訴期間内に提起された事実は原告の挙証責任に属するというべきであるが、前認定のごとく被告の反証は結局成功しなかつたものというべく、また他に出訴期間を徒過したこととなるごとき時期において原告及び亡永田新九郎が前記仲西に対する移転通知処分がなされたことを知つた事実を推認すべき証拠が存在せず、他方原告及び亡永田新九郎において昭和四〇年五月四日頃右移転通知処分があつたことを知つた事実は少くとも認められ、かつ右処分の取消を求める訴(第二〇号事件)が昭和四〇年五月三一日に提起されたことは記録上明らかであるから、前記仲西に対する移転通知処分の取消を求める請求は出訴期間を充足した適法なものというべきである。

第二、本案について(以下特記しない限り第一八号、第二〇号事件に共通)

一、別紙第一目録記載の土地(以下本件従前の土地と略称する)がもと原告及び旧原告亡永田新九郎の共有に属したこと、神戸国際港都建設事業生田地区復興土地区画整理事業の施行者である被告が、昭和三九年二月八日右両名に対し本件従前の土地を含む右両名の共有に係る合計一二筆の土地につき、三宮元町換地区一街区一一号六三一坪八合一勺を仮換地(以下本件仮換地と略称する)として指定したこと、右永田新九郎は昭和四〇年七月二二日死亡し、同人の子である原告が相続によつてその地位を承継したこと、本件従前の土地上には訴外村田春生所有の別紙第二目録(一)記載の建物及び同仲西芳子所有の同目録(二)記載の建物が存するところ、被告において昭和四〇年四月二七日右村田に対し神都都一第一四四号をもつて、同三九年六月三〇日右仲西に対し同第二七七号をもつて、本件従前の土地に対する仮換地が指定されたことを理由に、右各建物につきそれぞれ本件仮換地への移転通知処分(以下本件移転通知処分と略称する)をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、本件移転通知処分の根拠について、

土地区画整理事業の施行として土地区画整理法第九八条所定の必要に基き仮換地の指定がなされると、従前の土地に対する使用収益権能は停止され(土地区画整理法第九九条)、従前の土地に対しては第三者のために仮換地指定がなされあるいは道路敷予定地等として施行者が使用権を取得するに至るから、従前の土地上に存する建築物等は事業の迅速かつ円滑な遂行上これを移転または除却することが必要となるわけである。このことは、土地区画整理法第七七条第一項に、「仮換地若しくは仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定した場合」において建築物等を移転しまたは除却することが必要となつたときは、これらの建築物等を移転し、または除却することができる旨規定されていることからも、明らかである。そこで移転を行うか除却をなすかの基準について考察するに、仮換地の指定を原因としてなされる建築物等の移転または除却は、仮換地指定の性質上可及的に従前の土地上に存する私法上の使用収益関係をそのまま移行させる結果となるように行われるべきであるし、建築物等の移転または除却の必要は全く土地区画整理事業遂行の必要から生じたもので建築物等の所有者の責に帰すべき事由によつて生じたものではないから、施行者としてはできるだけ建築物等の所有者の利益を尊重しこれに損害を与えることの少い方法を選ぶべきところ、移転通知処分をなす場合は従前の土地上に存した使用収益関係には格別の変化を生じないのに対し、除却通知処分がなされるときは建築物等の所有者は事実上重大な損害を蒙るおそれがあるから、施行者としては建物所有者が従前地に対し使用収益権限を有しないことが明白な場合のほかは法律上もしくは物理的に可能である限り移転通知処分を行うべきである。原告は前記村田、仲西両名において従前の土地につき占有権原を有せず、かつ権利申告をしておらず従つて権利指定を受けていないから、移転通知処分をなすべきでなく除却通知処分をなすべきであると主張するが、その旨の明文はなく、かつ移転通知処分はこれによつて移転建物の所有者が仮換地上にその占有権原を取得する等私法上の権利義務関係を新たに創設する処分ではないし、これらの処分は前記のごとく私法上の権利関係に基くものではなく、土地区画整理事業の迅速かつ円滑な遂行のたのに採用された制度であるから、移転または除却通知処分をなすに際り、施行者において建築物等の所有者が従前の土地につき私法上占有権原を有するか否かの実体についてはこれを判断することを要しないものと解すべく、前述の原則に従い物理的に可能な限り移転通知処分をなすべきである。また土地区画整理法第八五条第五項は、同条第一項の規定による権利申告のないものについては、借地権等の権利が存しないものとみなして同法第三章第二節から第六節までの規定による処分または決定即ち換地計画の決定、仮換地の指定、換地処分、補償、清算等をすることができる旨規定するが、同章第一節通則(移転または除却を規定した第七七条は通則中にある)及び第七節権利関係の調整の規定の適用を除外しているものと解せられるし、建築物等の所有者は換地処分の終了するまでいつでも権利申告をすることにより権利指定を受けることができるのであるから、現に無申告であり従つて権利指定を受けていないことの故をもつて除却通知処分をなすべきではない。ことに、成立に争いのない乙第一、二号証及び弁論の全趣旨を綜合すれば、前記村田、仲西両名と地主である原告及び亡永田新九郎との間には本件従前の土地に対する占有権原を廻つて訴訟が係属し、第一審である当裁判所においては右村田、仲西両名及びこれと同様の立場にある多数の者に対し、その占有権原につき積極、消極両様の判決がなされ、現在控訴されて大阪高等裁判所に係属していること(もつとも右両名を除く他の大部分の者についてはその後原告との間に和解が成立した模様である)が認められるから、同人等が従前地に対し占有権原を有しないことが明白な場合ではないのであるし、右訴訟の結果によつて前記両名から権利申告がなされ従つて権利指定がなされることがあり得るから、右のごとき場合には前記両名に対し除却通知処分をなすことは許されず、移転通知処分をなすべきであるといわなければならない。原告の引用する最高裁判所判決(昭和四〇年三月一〇日大法廷言渡)は従前地の一部を賃借していた者であつても施行者から仮換地につき仮に権利の目的となるべき宅地部分の指定を受けないかぎり仮換地を現実に使用収益する権限を有しない旨の判決であるから、前記の判断と牴触するものではない。

三、本件移転通知処分と土地区画整理法第九二条違反の有無

土地区画整理法第九二条は、換地計画の決定または借地権の指定をなす場合の基準を定めた規定であつて、同法第七七条による建築物等の移転通知処分をなす場合には適用されないと解すべきであるから、本件移転通知処分が前記法条に違反して過小借地をつくることになる旨の原告の主張は理由がない。

四、本件移転通知処分と神戸国際港都建設法第二条第一項の精神違背の有無(第二〇号事件)

本件土地区画整理事業が神戸国際港都建設法に基づき施行されていること、同法第二条第一項は、同法に基づく都市計画とは、都市計画法第一条に定める都市計画の外、国際港都にふさわしい諸施設の計画を含むものとする旨規定し、同法の趣旨も神戸市を我国の代表的な国際港都として建設するためこれにふさわしい諸施設の計画を決定しこれを完成させるにあることは原告主張のとおりである。しかし仮換地の指定を理由としてなされた本件建築物等の移転通知処分は、決定せられた都市計画を施行する段階において事業の迅速かつ円滑な遂行の必要上なされる中間的処分であつて、基本たる都市計画自体とは直接の関係がないものであり、前記法の趣旨乃至法第二条第一項の精神は基本たる都市計画の決定及び事業の完成した段階において実現せられることを要しかつこれをもつて足りると解すべきであるから、本件移転通知処分がなされた段階においてかつこれのみをとらえて、神戸国際港都建設の趣旨乃至神戸国際港都建設法第二条第一項の精神に違背するということはできない。

五、以上のとおり、本件移転通知処分には違法はないから、それが違法であることを前提とし右処分の取消を求める原告の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田久太郎 松原直幹 尾方滋)

(別紙目録省略)

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